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博士(人間・環境学) (京都大学)
私の研究は、①20世紀を代表する哲学者マルティン・ハイデガーを中心とした西洋現代哲学の研究を出発点にして、②日本哲学(特に九鬼周造)と間文化哲学(Intercultural Philosophy)、そして③技術哲学への応用という3つの柱からなっています。
私の研究の背後にある大きな問題関心は、否応なく差し迫る現実をどう捉えるべきなのかということにあります。真理や共同体(あるいは共同性)、有限性、偶然性、文化、技術といった私の研究のキーワードはすべてこの関心に関わっています。
私の研究の3つの柱は、以下の研究プロジェクトにつながっています。
① アレーテイア(真理、真性)概念に着目したハイデガーの思索の統一的解釈
② 日本哲学を中心としたハイデガー受容史と間文化哲学の研究
③ 技術哲学におけるハイデガー批判の再検討とハイデガーの技術論の再評価
以下、それぞれについて簡単に紹介していきます。
1、アレーテイア概念に着目したハイデガー解釈
修士課程より、アレーテイア概念に着目したハイデガー研究を行ってきました。
この成果は、博士論文「隠れ―なさと有限性――ハイデガーにおける「真性」と「われわれ」の問題」としてまとめられました。
ハイデガーは、真理を「物事の正しさ」と考えるのではなく、そもそもその「正しさ」を成り立たせている「現れ」を真理と考えています(なので、私はハイデガーのWahrheitという語を「真理」ではなく「真性」と訳すようにしています)。
この発想は、古代ギリシア語で真理に相当する語「アレーテイア」が「隠れなさ」を意味しうるということに由来します。
私の研究の目的は、第一にハイデガー研究として、彼の思索全体をこのアレーテイアの探求として解釈していくことです。
アレーテイア概念に着目することで、前期思索の「実存的」な真理や中期思索の「芸術作品」における真理、そして後期思索の「言葉」や「技術」における真理に至るまでの連続的なモチーフを追跡することができると考えています。
他方で、ハイデガーのアレーテイア概念は問題含みの概念と結びつきます。
それは、特にナチスへの関与が取り沙汰される中期思索における「民族(Volk)」概念です。
ハイデガーは、彼の生涯にわたって探求の対象であった「存在」や「アレーテイア」に関わるわれわれのあり方として「民族」というものを考えています。
この「民族」は、たとえ特定の民族と即座に結びつけられることがないにせよ、アレーテイアに関わる共同体の排他性を意味しうるはずです。
ハイデガーは、存在やアレーテイアに関わるわれわれのあり方がもつ歴史性や固有性を強調する点で、安易なグローバリズムへの批判的な視座を提供する一方で、同時にアレーテイアを共有する共同体の排他性に不可避的につながりうるのではないでしょうか。
この問題意識が、私の研究の第二の柱につながります。
2、日本哲学と間文化哲学の研究
私の研究が目指しているのは、文化間の差異を安易に均一化せずに、文化の固有性を尊重しつつ間文化的な対話を行う道を探ることです。
このために、私はハイデガー哲学と並行して日本哲学の研究をしてきました。
日本哲学は、田辺元、和辻哲郎、九鬼周造をはじめとして、積極的にハイデガーの哲学を受容してきました。
日本哲学を研究することで、ハイデガーの問題意識、およびその思索を、日本という異なる文化圏にいるわれわれが、どのように引き受けることができるのかを考えることができます。
私は、日本哲学の研究を土台にして、ハイデガーのアレーテイア概念の研究を間文化哲学の研究へと発展させていこうと考えています。
現在は、ハイデガーの「言葉」についての思索、とりわけ「沈黙」概念に着目して、間文化的な対話をどのように考えるべきかという問いに取り組んでいます。
この研究は、グローバリゼーションが進む現代における国際交流のあり方を考えることにも寄与できると期待しています。
3、ハイデガーと技術哲学
最近では、ハイデガーの文献研究に基づいて、現代技術の問題に取り組んでいます。
ハイデガーの技術論は、現在に至るまで大きな影響力を持ってきましたが、他方で「悲観的」であるとか「ロマン主義的」であるといった理由で批判の的にもなってきました。
しかし技術哲学におけるハイデガー批判は、文献的な誤解に基づいているため、ハイデガー研究の側からの再反論をする必要があります。
加えてハイデガーの技術論は、その抽象的な印象に反して、現代における技術の問題を照らし出す重要な示唆に富んでいると考えています。
ゆえに、技術哲学の文脈でのハイデガーの技術論の位置づけを再検討することで、現代の技術哲学の議論をより豊かに発展させることを目指しています。
またハイデガーによれば、現代技術の問題は西洋形而上学の歴史と密接に連関しています。
このことを踏まえて、近年ユク・ホイが試みているように、ハイデガーの技術論を正面から受け止めながら、間文化的な視野から技術哲学の問題を考えようとしています。
4、アウトリーチ活動
社会貢献活動の一環として、高校生や一般向けに、わたしの研究をわかりやすく伝える活動を行っております。
哲学を含む人文科学が、わたしたちの社会と実際につながっていることを伝えていきたく考えております。
これまでに京都大学高大連携事業による高校生向けの配信授業、および古典講読サービスThe Five Booksさんでの一般向け読書講座を行ってきました。